工場などの生産現場で製品不良や機械の不調といったトラブルは、全てを防ぐことが困難です。そうしたときに、問題や異常、不調を解決するためのトラブルシューティングによるリカバリーが重要な役割を担います。
しかしながら多くの企業では、現場のベテランが持つ勘やコツ、経験に基づいた属人的なトラブルシューティングに頼らざるを得ないのが実情です。高齢化や人手不足が進んでいく中では、ベテランの技能をいかに継承するかがカギとなります。ただ、厚生労働省系の研究機関である労働政策研究・研修機構の調べによると、技能継承は重要であると認識していても、実際にはうまく技能継承できていない企業の割合が約半数を占めている状況です。さらに、約8割のモノづくり企業では将来の技能継承を不安視もしています。
こうした背景を踏まえ、近年では、工場などの生産現場のトラブルシューティングに生成AIを活用することで技能継承の課題を克服する流れが出てきました。そこで製造DX.comは、トラブルシューティングに生成AIを活用している先進的な活用事例を6つに厳選して紹介します。先進的な活用事例を参考に、工場などの生産現場への生成AI導入を検討してみてください。
もくじ
- 【TOPPANの事例】ベテランの知見を学習させた生成AIを開発し、トラブル対応時間を30%短縮!
- 【日立システムズの事例】IT機器の保守に生成AIを活用し、月間1100時間以上の削減効果狙う!
- 【NECプラットフォームズの事例】故障モード影響分析(FMEA)の自動化で生産性を25%向上!
- 【旭鉄工の事例】生成AIでトラブル対処の属人化を排除! 標準化も実現し生産効率向上
- 【パナソニックの事例】AIチャットボットで、社内の問い合わせ対応時間を月50時間削減!
- 【トヨタ自動車の場合】独自の生成AIを構築し、部品開発の技能継承を促進!
- まとめ:生成AIを活用したトラブルシューティングは、今や生産性向上に役立つ存在に!
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【TOPPANの事例】ベテランの知見を学習させた生成AIを開発し、トラブル対応時間を30%短縮!
総合印刷大手のTOPPANは、熟練技術者のノウハウや暗黙知を生成AIに学習させることでトラブルシューティングに活用する取り組みを始めました。
同社では、熟練技術者が定年退職などの理由によって会社を退職していく一方で、技能継承が十分にできていなことが大きな課題となっていました。そこで取り入れた解決策が、生成AIによるトラブルシューティングです。過去の故障データや故障時の対応策などのノウハウを学習させることで、将来的な故障予測や迅速な故障対応を可能にする取り組みです。
TOPPANが導入している生成AIでは、リアルタイムでデータを収集することで生産時に発生したトラブルの状況分析を可能としています。さらには分析結果から、過去のトラブルデータと照合して最適な対応策を提案。生成AIの活用によってリアルタイムかつ迅速なトラブル対応が可能となりました。TOPPANでは、導入工場での故障発生から対応完了までの時間が30%短縮される効果が発揮されたとのことです。TOPPANの生成AIを活用したトラブルシューティングは、生成AIによって技能継承と生産性向上を同時に実現した事例として多くの企業の参考となるでしょう。
【日立システムズの事例】IT機器の保守に生成AIを活用し、月間1100時間以上の削減効果狙う!
日立システムズではトラブルシューティングに生成AIを活用することで、ヒューマンエラーの防止や業務効率化で大きな成果を上げようとする取り組みを始めました。
同社では、人材不足や社員の高齢化に伴ってIT機器を保守する業務の技能継承が困難となっている背景があります。そこで導入したのが生成AIによるトラブルシューティングです。2024年10月にIT機器の製造工程において実用化しました。具体的には下記の3ステップで導入を進めていくとのことです。
- IT機器の保守業務で、報告書やチェックシートの作成、危険予知(KY)活動に使用する生成AIを2024年度内に実装
- 保守業務の効率化ノウハウをIT機器以外の保守業務を行う日立グループ各社に提供
- 「保守ナレッジ」×「生成AI」のサービスを、グループ外の保守業界にも提供
日立システムズでは、社内での生成AI導入によって保守業務に費やす時間を月間で1100時間以上削減する効果を見込んでいます。保守エンジニアが使用する端末に生成AIを導入し、作業前に手順や危険なポイントを洗い出して一覧化するチェックシートを作成したり、保守現場で起こり得るミスや事故を現地で撮影した写真から予測するKY活動の自動化、熟練の技術を参照できるAIテクニカルサポート、報告書の自動作成によって実現する計画です。
【NECプラットフォームズの事例】故障モード影響分析(FMEA)の自動化で生産性を25%向上!
NECプラットフォームズは、就業者数の減少に伴って熟練技能者への負荷が高まっていることを大きな問題として考えています。その結果として、若手への技能伝承が難しくなっている点を重要な課題と認識しているといいます。
そこで同社では、若手社員が生成AIを活用して効率的に生産できる環境を用意しました。その一つとして、工程設計で取り組む故障モード影響分析(FMEA:Failure Mode and Effects Analysis)を生成AIで自動作成する取り組みを始めました。
従来は設計情報や過去のトラブル事例などを基にして、手動でFMEAを作成していました。同社では、過去のトラブル事例などを学習させた生成AIを活用することで、工程設計の生産性を25%向上することができました。品質コストについても、シミュレーション上では15%も改善したとのことです。
NECプラットフォームズのトラブルシューティングは、生成AIを活用したことで属人化も排除でき、熟練者への負荷を軽減できた成功事例と言えるでしょう。
【旭鉄工の事例】生成AIでトラブル対処の属人化を排除! 標準化も実現し生産効率向上
自動車部品を手がける旭鉄工では、IoTや生成AIなどの先進技術をいち早く取り入れ、効率的なモノづくりを実現し続けています。そんな同社では、製造現場におけるトラブル対応の共有を大きな課題と認識していましたそこで生成AIを活用し、下記のような特徴を持つトラブルシューティングの体制を構築しました。
- 必要な時に情報を提供すること
- 必要な人に情報を提供すること
- 柔軟かつ迅速に意思決定をすること
上記のシステムを簡単にまとめると、「工場の現場担当者が自主的に判断する仕組み」の構築といえます。最初に行ったのは、各製造部門から過去のトラブル対応に関するノウハウや事例の情報の蓄積です。その後、トラブルの対処ノウハウや改善データなどを生成AIに学習させます。その結果として、生成AIを活用したトラブルシューティングを実現し、従業員が必要な時に情報を入手できるようになりました。
従来は従業員によってトラブルへの対処方法が異なっていたり、その都度対処方法を考えていたといいます。トラブルシューティングの仕組みを構築したことでトラブルの対処方法の標準化も実現し、作業効率も向上したとのこと。旭鉄工の事例は、生成AIの活用によってトラブル対応における属人化を排除できた成功例と言えます。
【パナソニックの事例】AIチャットボットで、社内の問い合わせ対応時間を月50時間削減!
AIチャットボットが広く利用されるようになりましたが、主な用途は顧客からの問い合わせ対応です。そうした中、パナソニックが提供するAIチャットボット「Wis Talk」は「社内問い合わせ」や「社内ナレッジの共有」にも活用できます。したがって、トラブルシューティングでの活用も可能です。
トラブルが発生した際に、考えられる複数のエラー原因を表示し、作業員が状況に合った内容を選択します。たとえば、「表示されているエラー画面の種類」や「エラー番号」などです。
生成AIの活用でトラブル対応時間が短縮され、生産性が向上します。チャットボットの活用方法は、今後ますます広がりを見せるのではないでしょうか。
【トヨタ自動車の場合】独自の生成AIを構築し、部品開発の技能継承を促進!
自動車産業では電気自動車(EV)をはじめとする電動化が進み、バッテリーや充電ステーションなどの新たな関連製品の開発が必要になってきました。そこで、トヨタ自動車は米Microsoft社と手を組み、独自の生成AI「O-Beya」を構築しました。
これはトヨタの「大部屋制度」という仕組みを生成AIに落とし込んだものです。複数のエンジニアが一つの大きな部屋で作業する制度で、大部屋の中でベテランから若手が一緒に働くことで、製品開発の障害を一緒に考えたりする過程を通じて技能やノウハウを継承するメリットを生んでいます。
トヨタとMicrosoftは、これを企業向けにカスタマイズしたAIエージェント「O-Beya」として開発。エンジン用やバッテリー用、法令規則用など9つに分類分けした、言わば各領域の専門家と言えるAIエージェントを構築し、相談するとその答えが返ってくるようにしました。豊富な社内ノウハウにアクセスすることを可能にすることで、いつどこにいたとしても、大部屋にいて開発するようなメリットを生み出すことが可能になるとのことです。
O-beyaの活用は、熟練技術者の退職により知識や経験が継承されないという課題の解決策として有効な手段と言えるでしょう。
まとめ:生成AIを活用したトラブルシューティングは、今や生産性向上に役立つ存在に!
本記事では工場などの生産現場において、生成AIを活用したトラブルシューティングの事例を紹介しました。
近年、どの業界においても人手不足が大きな課題となっています。また、生産現場においては熟練技術者の退職に伴い、技術者が不足してきています。とくにトラブルが発生した際には、技術者への負担が大きくなることも課題でした。
製造DX.comが紹介した活用事例では、技能継承として生成AIを活用するだけではなく、属人化の排除や標準化を通じたトラブルの対処時間削減や品質向上の効果がみられています。積極的に生成AIに投資していくことで、収益性の向上につながることは明白でしょう。
製造業においても生成AIはさまざまな分野で活用されるようになってきました。しかしながら、トラブルシューティングに活用している企業はまだそれほど多くありません。一方で、深刻な人材不足が叫ばれるなか、対策の一つとして有効な手段であると考えます。
ぜひ、記事内で紹介した活用事例を参考に、生産現場のトラブルシューティングに生成AIを活用してみましょう!
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製造DX.comを運営する株式会社ファースト・オートメーションは製造業に特化した生成AI「SPESILL(スペシル)」を提供しています。製造DX.comでは生成AIに関する研究開発の成果を投稿しています。