IEの手法はどれから使うべきか?——工程分析・稼働分析・時間研究の選び方と、IEで改善が出ない4条件【2026年版】

「生産性を上げるならIEをやれ」と言われても、IEには工程分析、稼働分析、動作研究、時間研究と手法がいくつもあり、どれから手をつければよいかは教科書に書かれていません。順番を間違えると、ストップウォッチで何百回も測ったのに、ライン全体の出来高はまったく変わらないということが起きます。この記事では、IEの手法を選ぶ順番と、症状から手法を選ぶ判断基準、そしてIEをやっても改善が出ない条件を整理します。
この記事の要点
- IEの手法は粗い単位から細かい単位へ使います。順番は①工程分析 ②稼働分析 ③動作研究・時間研究です。
- どの手法を使うかは、ムダがどの単位に隠れているかで決めます。運搬や停滞が多いなら工程分析、止まっている時間が分からないなら稼働分析です。
- 稼働分析のワークサンプリングは、観測回数を先に計算してから始めます。回数が足りない結果は判断に使えません。
- 時間研究で決める標準時間は、正味時間に余裕時間を足した値です。測った時間をそのまま標準にしないことが大切です。
- ボトルネック以外の工程を測っている、品種や工程が頻繁に変わる現場では、IEをやっても改善が出にくくなります。
この記事はどんな判断に役立つ?
この記事が支援する判断:生産技術・製造課の担当者が、改善活動を始める前に「どのIE手法で、どの工程から測るか」を決める場面を支援します。IEの定義や手法の体系は別記事で扱っており、本記事は手法を選ぶ順番と判断基準に絞っています。
IEの手法は、どれから使えばよいのか?
結論から言えば、最初に使うのは工程分析です。IEは、仕事を工程、作業、動作と細かく分解しながらムダを探す技術です。細かい単位から始めると、ムダの大きい場所を見落としたまま、小さなムダばかりを削ることになります。そのため、図1のように粗い単位から順に絞り込んでいきます。
米国の産業・システム工学会(IISE)は、IEの対象を「Industrial and systems engineering (ISE) is concerned with the design, improvement and installation of integrated systems of people, materials, information, equipment and energy.」と定義しています(出典:IISE「Industrial and Systems Engineering BoK」)。人・材料・情報・設備・エネルギーを一つのシステムとして扱うという定義のとおり、最初に見るべきは個々の動作ではなく、モノと人の流れ全体です。
その際に工程から作業へ分解、更に一つ一つの動作へと分解していきます。
インダストリアル エンジニアリング(IE)とは?その定義と代表的な手法を紹介
どの手法を使うかは、何で決まるのか?
手法は、現場で起きている症状から選びます。「仕掛品が工程の間にたまっている」なら流れの問題なので工程分析、「人も設備も忙しそうなのに出来高が上がらない」なら止まっている時間の問題なので稼働分析、というように、症状がムダの単位を教えてくれます。表1は、よくある症状と最初に使う手法の対応をまとめたものです。
| 現場の症状 | 最初に使う手法 | 分かること |
|---|---|---|
| 工程の間に仕掛品がたまる、運搬が多い | 工程分析 | 運搬・停滞・検査の回数と距離 |
| 忙しそうなのに出来高が上がらない | 稼働分析(ワークサンプリング) | 作業・準備・待ち・故障の時間の割合 |
| 同じ作業なのに人によって時間が違う | 動作研究 | 手の動きのムダ、置き場所・治具の問題 |
| 標準時間がなく、計画や原価が当たらない | 時間研究 | 作業ごとの正味時間と標準時間 |
| 人と設備の組み合わせで待ちが出る | 連合作業分析 | 人と設備が互いを待っている時間 |
工程分析では、何を記録するのか?
工程分析では、材料が入ってから製品になるまでの流れを、加工・運搬・検査・停滞の4つに分けて記録します。記号の決まりは JIS Z 8206(工程図記号)に定められています。ポイントは、付加価値を生むのは加工だけだという点です。運搬・検査・停滞の回数と距離、時間を並べると、どこを減らせばよいかが一目で分かります。まずは1つの製品について、材料の受け入れから出荷までを一度だけ通しで追いかけてみてください。
稼働分析は、何回観測すれば判断に使えるのか?
稼働分析でよく使われるのが、ワークサンプリングです。決めた時刻に人や設備を観測し、「作業中」「準備中」「待ち」「故障」などのどの状態にあるかを記録して、回数の割合から時間の割合を推定します。ストップウォッチで張り付く必要がなく、1人で複数の作業者や設備を見られるのが利点です。一方で、観測回数が少ないと割合がぶれるため、始める前に必要な回数を計算します。
信頼度95%で必要な観測回数 N は、調べたい状態の割合の見込みを p、許容する相対誤差を S とすると、N=4×(1-p)÷(S²×p) で求められます。たとえば「待ち」が全体の3割程度(p=0.3)と見込み、相対誤差を±10%(S=0.1)に収めたいなら、N=4×0.7÷(0.01×0.3)で約930回です。割合の小さい状態を調べるほど必要な回数は増えるため、観測の計画は時間帯や曜日の偏りが出ないように組みます。
時間研究では、測った時間をそのまま標準にしてよいのか?
そのまま標準にしてはいけません。時間研究で測るのは、観測したその人のその日の作業時間です。標準時間は、決められた方法で、十分に慣れた作業者が普通の速さで作業したときの時間として定めます。そのため、測った時間を作業者の速さで補正して正味時間を出し、そこに疲労や用足し、段取りの合間などの余裕時間を足します(図2)。
余裕時間の割合を正味時間に掛ける方法では、正味時間が60秒、余裕率が10%なら標準時間は66秒です。標準時間は、工程管理や生産計画の土台になる数字でもあります。工程管理のシステム化を扱った記事でも、標準時間が決まっていないことを、システムを入れても改善しにくい条件として挙げています。
標準時間が決まっていない・実績を入れる人が決まっていない・遅れの原因が設備側にある工場では、システム化しても工程管理は改善しにくく、先に直すべきものがあります。
工程管理は紙・Excel・システムのどれで回すべきか?——移行を判断する5つの基準と、システム化しても改善しにくい3条件【2026年版】
どの工程から測ればよいのか?
測る工程は、ライン全体の出来高を決めているボトルネック工程から選びます。IEの手法は、どの工程にも同じように使えますが、効果が出る場所は限られています。ボトルネックではない工程の作業時間を短くしても、その工程の後ろに仕掛品がたまるだけで、完成品の数は増えません。工程分析と稼働分析で「いつも同じ場所で止まっている工程」を見つけてから、そこで動作研究と時間研究を行うのが近道です。
ボトルネック以外の工程をどれだけ速くしても、ライン全体の産出量は増えず、仕掛りが増えるだけになります。
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IEをやっても改善が出ないのはどんなときか?——向かない4つの条件
IEは費用をかけずに始められる改善の手法ですが、どの現場でも効くわけではありません。次の条件に当てはまる場合は、測る前にやるべきことがあるか、IE以外の打ち手が先になります。
- ボトルネック以外の工程を測っている——時間を縮めても出来高は増えない。まず止まっている工程を特定する。
- 品種や工程が頻繁に変わる——決めた標準時間がすぐに古くなる。作業を要素に分けて時間を持っておく方法でないと、測り直しの手間が改善の効果を上回る。
- 測定が監視や評価だと受け取られている——観測されていると作業者は普段と違う速さで動き、測った時間が実態から外れる。目的を先に説明し、個人の評価には使わないと決めておく。
- 改善後の標準を更新する担当がいない——作業を変えても標準時間と手順書が古いまま残り、計画や原価の数字が当たらなくなる。
とくに2つ目は、多品種少量の工場で起きやすい条件です。この場合は、1製品ずつ時間を測るのではなく、「部品を取る」「ねじを締める」といった共通の要素作業ごとに時間を持ち、組み合わせて標準時間を出す方法のほうが、測り直しの手間を抑えられます。
まとめ——IEは「流れ」から測り、「動作」は最後に測る
IEの手法は、工程分析→稼働分析→動作研究・時間研究の順に、粗い単位から細かい単位へ使います。どの手法から使うかは現場の症状で選び、ワークサンプリングは観測回数を先に計算し、時間研究では測った時間を補正して余裕時間を足してから標準にします。そして、測る場所はボトルネック工程から選びます。品種が頻繁に変わる、改善後の標準を更新する担当がいないといった条件に当てはまる現場では、先にその条件を解消してから測り始めてください。
どの工程から手をつけるべきか、測った結果をどう標準や計画に反映するかで迷ったときは、業務の流れを分解すると詰まりの所在が見えます。現場改善の進め方を相談する(無料)
よくある質問(FAQ)
IEの手法は、どれから始めればよいですか?
工程分析から始めます。材料が入ってから製品になるまでの流れを、加工・運搬・検査・停滞に分けて記録し、ムダの大きい工程を絞り込んでから、稼働分析や動作研究・時間研究で細かく測ります。
ワークサンプリングは何回観測すればよいですか?
信頼度95%なら、調べたい状態の割合の見込みを p、相対誤差を S として、N=4×(1-p)÷(S²×p) で求めます。割合30%を相対誤差±10%で調べるなら、約930回が目安です。
標準時間と実際の作業時間は、何が違うのですか?
実際の作業時間は、測った人と日によってぶれます。標準時間は、その時間を作業者の速さで補正した正味時間に、疲労や用足しなどの余裕時間を足して定めた、計画や原価の基準になる時間です。
出典
- Institute of Industrial and Systems Engineers(IISE)「Industrial and Systems Engineering BoK」 iise.org(2026年9月29日に定義文を原文で確認)
- JIS Z 8141「生産管理用語」
- JIS Z 8206「工程図記号」










