ロボットシステムの導入プロセスを標準化するRIPS誕生秘話

ロボットシステムの導入プロセスを標準化するRIPS誕生秘話
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年々需要が増加し、世界的に見ても右肩上がりの成長を見せる産業用ロボット業界。いわゆる「4強」と言われるロボットメーカーの内、2社の国内メーカーが名を連ねている我が国にとって、産業用ロボットは今後ますます重要な産業となっていくことは間違いない。

しかし、ロボットシステムの導入には非常に複雑なプロセスが存在することから、まだまだ導入障壁は高いと言わざるを得ないのが現実だろう。また、ロボットシステムの導入にあたって、SIerとエンドユーザーの間に認識の齟齬が生じるなどのトラブルが常態化しているのも事実である。

そんな業界全体の課題解決への取組みとして生まれたのが今回のテーマとなるRIPSだ。RIPSとはRobot system Integration Process Standardの略で、ロボットシステムの導入において、最適な手順でシステム導入ができる工程管理の手法を指すものである。今回はRIPSの生みの親でもあるミツイワ株式会社の深沢 勝治氏にRIPSの誕生秘話や業界の課題についてお話を伺った。

ミツイワ株式会社 深沢 勝治氏

製造業で情報システム・経理・生産管理・経営企画管理部門を経験し、
製造業の株式上場、M&A、ものづくり業務改革などのプロジェクトに参画。
モノづくりの現場から経営トップまで、あらゆる立場の方々と協調して
推進する製造業の改革プロジェクトを多数経験。
近年はスマートファクトリー、DX推進の支援を担務し現在に至る。
ユーザー側で業務改革を伴うプロジェクトの経験を活かし、
常にユーザー視点を以って、「使う人を思いやる心で任に当たる」
「クレームにならい不満にも耳を傾ける」をモットーとしている。

スマートファクトリー黎明期に生まれたRIPSの構想

安藤:RIPSの構想はどのような経緯で生まれたものなのでしょうか?

深沢:10年程前、ミツイワでスマートファクトリービジネス推進部の前身となる事業部が発足してすぐぐらいの時期に、大規模な自動化プロジェクトが立ち上がりました。当初私は上流の現状分析の工程を請け負う形でプロジェクトに参加しました。しかし、大規模なプロジェクトでしたので参画している企業数も多く、なかなか協調して進めていくのが難しいような状況だったんですね。

安藤:まだまだスマートファクトリーという概念が黎明期にあるような時代ですね。

深沢:そうですね。このプロジェクトはその当時としてはかなり革新的な取組みで、現在のスマートファクトリーの走りとも言えるものでした。今では当たり前になっていますが当時はまだスマートファクトリーという言葉すら存在していなかった時代だったと思います。

現場の課題から生まれたRIPSという概念

安藤:この大きなプロジェクトがどうRIPSに繋がっていくのでしょうか?

深沢:当初ミツイワは生産計画とMES、実績収集などの情報システムを担当する予定でした。しかしいざプロジェクトが始まってみると現場のSIerではプロジェクトマネジメントが難しいということになり、最終的に私が全体のプロジェクトマネジメントを担当する事になったんです。

ここで痛感したのがプロジェクトの進め方だったり、業界間で専門用語が違ったりと、普通の進め方だとなかなか統制が取れなかったという部分ですね。例えば要件定義1つとっても、IT分野とFA分野では認識が全く異なりますから。これじゃあ上手くいかないよねと。結果的に実態と合わない方向にプロジェクトが進んで行ってしまい、現場を混乱させるというところから、いわゆる標準化する体系が必要だなと強く感じたのがRIPSの始まりであったと思います。

安藤:なるほど、実際の経験に基づいた課題感を元にRIPSという概念が生まれたんですね。このプロジェクトの段階ではまだまだ構想段階だったと思うのですが、RIPSの本格的な設計というのはその後に行われたのでしょうか?

深沢:そうですね。このプロジェクトが終わってすぐに体系化を初めました。これは裏話なんですが、初めはIT/FA連携トータルのものをRIPSと呼んでいたんです。しかし、進めていくうちに現場システムだけのものと、全てひっくるめたもので2つに分けた方が良いよねという話になり、全体的なものをMIPS、IT連携を行わないものをRIPSにしたという経緯があります。それから社内で様々なケースに適用しながらブラッシュアップを重ねていきました。

外部公開に至った経緯

安藤:初めは社内だけの運用だったんですね。どのタイミングで外部に向けて公開していく流れになったのでしょうか?

深沢:その当時の経済産業省の動きとして、ロボットの活用でもっと日本のものづくりを強くしたいという政策があったんですね。ではロボットを広めるためにはどうしたら良いのかという施策を検討されている中で、IT/FA連携のシステム導入を円滑に進めるためのプロセス標準としてこちらがMIPSを提起し、それが採択されたという流れです。そこから更に色々な企業に協力を得ながら修正を重ねて一般公開に漕ぎ着けたという流れですね。

安藤:公開後の反響はやはり大きかったですか?

深沢:公開直後はそれほどでもなかったと思います。しかしその後にロボット工業会や、SIer協会に取り上げられてからは徐々に広まっていったという実感がありますね。

RIPS生みの親が感じている業界への課題

手戻りとなるケースについて、その原因が多く発生している工程(SIer協会のアンケートより抜粋)

安藤:現場の課題からRIPSが誕生したという経緯を伺いましたが、深沢様が現在の業界に感じている課題はありますか?

深沢:RIPSが誕生した当時というのは、自動車メーカなどある程度規模感のある企業の案件が殆どでした。なので現場のSIerも自動化に慣れているユーザーを相手にしていれば良かったんです。しかし、業界全体が成長していく中で、いわゆる三品産業と呼ばれる業界を初めとした、新しい領域にも自動化システムが普及していく流れになっていきました。それに伴い、初めて自動化を行うというユーザーからの案件も増えていくわけですが、そう言ったユーザーは当然どうやって自動化を進めて行けば良いのか分からない。そこを上手くヒヤリングして物に転写しなくてはいけないわけですが、そう言ったことをやってきていなかった企業が多いので、そこに認識の齟齬が生じて言った言わないなどのトラブルが常態化してしまっているというのが大きな課題だと思いますね。

安藤:業界が成長し需要が増えた結果、ユーザーの層も広がっていくのは良い傾向でもあるとは思いますが、それが逆にロボットSIerを苦しめている要因にもなっているということですね。

深沢:この先間違いなく労働人口は減っていくので、色んな意味で自動化というのはもう踏み切らなければいけない段階にきているわけですが、供給側が拡大する需要について行けていないというところがあるかと思います。

安藤:そのような話を聞くと、やはり業界がスムーズに成長していく為には、RIPSのような標準化されたプロセスを用いるというのは今後非常に重要になってくると感じますね。RIPSが誕生してから御社内でこういった問題に対する変化というのはどの程度見られましたか?

深沢:そうですね、やはり一番初期の段階でRIPSに則りこのプロジェクトはこういう流れで進めますよという宣言をすることによって、後から言った言わないの問題に発展するということが無くなり、確実にプロジェクトを進めることができるようになりました。あとはリスクの共有の部分ですね。やはり自動化というのは一点物の開発になるので、本当のところでやってみないと分からないという部分は必ずあるんです。しかしそれをストレートにお客様に言ってしまうとこちらへの不信感にも繋がってしまうので、そこの合意形成は慎重に行う必要があります。やはりリスクを事前に共有しておかないと、いざトラブルが起こった際に一緒に解決していこうということにならないんですね。なのでその部分もRIPSでは特に注意している部分の1つです。

安藤:ユーザーとしてもプロジェクトの進め方が事前に把握できれば安心材料にもなりますよね。またリスク共有など、そう言ったユーザーとのコミュニケーションという部分でもRIPSが一役買っているわけですね。

RIPSの本質とはなにか

貴社における SI 業務で、手戻りとなるケースについてその原因で多いものを教えてください(SIer協会のアンケートより抜粋)
このデータを見ても顧客との「コミュニケーション不足」が大きな要因となっていることが分かる

安藤:サイトを拝見させていただくとRIPSの適用支援も行っているかと存じますが、他の企業にRIPSが広まっていってるという実感はありますか?

深沢:私が感じているのは、方法論だけが一人歩きしてしまっているというところですね。RIPSとして公表されているドキュメント体系の表などを見ただけだと、結局このフェーズではこのドキュメントを作りますっていうことしか分からないんです。RIPSの本質というのは「コトづくりの観点でのフロントローディング」なのですが、「ものづくりの観点でのプロジェクト管理」ばかりが意識されている傾向にあるなとは感じますね。

安藤:「コトづくり」というと先ほどお話にもあったユーザーとの合意形成だったりっていうコミュニケーションの部分に当たるのでしょうか?

深沢:そうですね。結局お客さんが求めていることは何かというのを考えた時に、システムや装置を導入して最終的に利益を出すことが目的なわけですよね。なのでやはり「もの」よりも「こと」なわけです。先に「もの」が出てきてしまうと後から「こと」が達成出来なかったという事態に陥るわけですね。RIPSも同じで、どうしてもドキュメントの部分にフォーカスされがちなのですが、そういう視点がないと、RIPSを適用するとただ工数が増えると思われてしまうんです。なので我々としてはそこの部分を正しく広めていく努力をしていきたいなという思いはありますね。

安藤:一般的に知られているドキュメント体系だったりというのはあくまで外側の部分で、本質はSIerの在り方というか、精神的な部分であるというところなんですね。そういう観点で見ると、やはりネットなどで拾える程度の情報ではRIPSを完全に理解することは難しいように感じますね。

深沢:ついこの間も納期が大幅に遅れたプロジェクトに途中から参加させてもらったんです。話を聞くともとはRIPSに準拠してプロジェクトマネジメントを行うということで始まったそうなんですが、蓋を開けてみたらRIPSのりの字もないという状態だったんです。そういう状況を見ると公開している我々の責任も感じるところではありますね。やはりプロジェクトというのはなまものなのでケースバイケースで柔軟に進めるべきところも多いと思うんです。なので既に方法論を確立されているのであればそれに合わせて変えていけば良いだけの話で、重要なのは皆が共通の認識で進めていける方法があるということだと思います。

安藤:本質を理解しないままRIPSを適用しても付け焼刃にしかならないということですね。御社としては今後もRIPSを業界全体に広めていきたいという思いはありますか?

深沢:そうですね。我々としてはRIPSの理解者が業界に増えてプロジェクトの推進方法が標準化されると、これまで常態化していたロスが低減されると考えます。そしてそれによってユーザーに対する費用負担も抑えられるので、結果的にSIerの収益性も改善されていくというのが我々の願いですね。RIPSはそんなに仰々しいものではなく、当たり前のことを当たり前にやるというのが前提のものですので、皆さんも気軽に検討していただけたらとは思いますね。

安藤:本日はありがとうございました。

また、弊社が開発する「ROGEAR」では今回紹介したRIPSのテンプレートを備えており、ROGEARを用いることでRIPSの適用をより容易に行うことが可能となっている。RIPSの適用と同時にこちらのサービスの利用も是非検討してみてほしい。

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