【徹底検証】生成AI(Chat GPT)で旋盤加工のフランジ部品の設計図面を作成してみた【2024年12月更新】
設計図面の寸法がわずかに変わるだけでも、修正に多くの時間を費やしてしまった経験はありませんか?
たった1mmの修正やささいな配置の変更で、図面作成を一からやり直す必要が生じてしまいます。そのため、手書き図面が多い製造業の現場では、生産性の改善を阻む壁の一つとして認識されているのではないでしょうか。
また、既にデータ化された図面データがあったとしても、顧客や関係部署からの図面修正の要望数が増えると、設計者が本来の業務に集中できず、プロジェクト全体の進行が遅れる事も懸念されます。
生産性の改善を阻むこの問題は、どのようにすれば解決することができるのでしょうか?
その答えの一つに生成AIの活用が挙げられます。しかし、いざ生成AIの活用に取り組んだとしても実用レベルのアウトプットを生成する事ができなかったり、上手く業務の効率化に落とし込めなかったりするものです。
製造DX.comでは、そのような困りごとを抱える工場長や設計・生産現場の担当者に向けて、「旋盤加工のフランジ部品」を題材に、生成AIの代表格とされるChat GPTを活用した図面作成のトライアルを行ってみました。
実際のプロンプトやその解説も公開しながら、図面作成の検証結果をご紹介いたします。
もくじ
世界的に高まる生成AIを使った図面作成の機運
「生成AI × エンジニアリング」は製造現場の生産性を大きく向上させる可能性を秘めた領域として世界的に注目されています。
世界的に有名なコンサルティング会社の米マッキンゼーは、製造業における生成AIの活用先として「図面作成によるR&Dおよびプロトタイプ時間の短縮」を挙げています。図面作成における生成AI活用の機運は着実に、世界的に高まっているのが常識となりつつあります。
引用先:Back to McKinsey Talks Operations Blog
また近年、生成AI技術の中でも、VLM(Vision Language Model)という技術が注目を集めています。VLMとは、AIがテキストを理解した上で画像を生成したり、画像から読み取れる情報を理解し詳細な説明の返答や新たな画像を生成したりできるAIモデルです。
簡潔に例えるとすれば、「人間と同じようにAIが目で見て理解し、テキストや画像などにアウトプットする」能力があると言えます。
このVLMという技術を活用する事で、生成AIを用いた図面作成への活用が期待されています。
実際にChat GPTでフランジ部品の設計図面を作成してみた
それでは実際に、Chat GPTを用いてフランジ図面の設計図面を作成してみましょう。
今回使用するChat GPTは「Chat GPT-4o」であり、2024年12月現在の最新バージョンです。
質問回数は10回までであれば、無料で試用する事が可能です。
本記事ではプロンプト(生成AIの動作を指示するプログラム)の解説をしながら図面を作成していきますので、ぜひ読みながら試用してみてください。
はじめに、Chat GPTに与えるプロンプトは下記の点線内の文章にて試みます。
あなたは優秀な部品図面作成のプロフェッショナルです。
以下の#[Premise]から、#[Constrains]に従って、旋盤加工のフランジ部品の図面をステップバイステップで作成してください。また、#[Supplement]の条件を守るようにお願いします。
図面の作成前には、旋盤加工で物理的に加工できるかをステップバイステップでの検証も実行してください。
なお、ハルシネーションは禁じます。
#Premise /*前提条件*/
出力形式:pdf
順守する製図規格:日本工業規格(JIS)
図面サイズ:A4サイズ横長
図枠の右下に描画する標題欄の構成:#[部品名],#[品番],#[製作個数],#[投影法(指定なければ等三角法],#[尺度]#[材質],#[作生年月日],#[設計者],#[検図者],#[承認者],#[作成年月日]
記載言語:英語
#Constarins /*制約条件*/
外径:Φ100mm
内径:Φ50mm
厚み:Φ10mm
穴の大きさ:Φ10mm
穴の配置:5個
穴の補足:外径と内径の間で、物理的に旋盤加工が可能な配置をお願いします。
その他の条件:最適なものを提示してください。
#supplement /*補足*/
・部品図面が図枠からはみ出す場合には、尺度を収まるように自動で調整してください。
・図面作成にあたっては格子参照方式を適用してください。
・図面には寸法線を記載してください。
Chat GPTで求めるアウトプットの精度や品質を高めるためにはコツがいくつかあります。それは、AIの立場を設定したり、文章の構造化や記号を用いて情報を整理したりする事、数字を用いて条件を定義する事などが挙げられます。
今回のプロンプトでは、Chat GPTが部品図面作成のプロフェッショナルである事を定義した上で、「#」を使った入れ子構造で情報を整理しました。具体的なフランジ図面の数値も記載し、作成を指示しました。
またプロンプトの中には、事実に基づかない情報の生成を防ぐ「ハルシネーションの禁止」や一個ずつ手順を実行させて論理的なアウトプットを生成する方法論「ステップバイステップ」などの応用的な指示も活用しました。このようなテクニックを活用することで、アウトプットとなる図面の精度や品質向上を図っています。
1回目の指示と生成結果
上記のプロンプトで実際に行った指示と、Chat GPTからの応答そして生成された実際の図面がこちらです。
出力された図面を確認すると、#Premiseで指示した「出力形式:PDF」や「図面サイズ:A4横長」、「図枠右下に描画する標題欄の構成」などは指示通りに出力されています。
また#Constarinsで指示した外径や内径など具体的な数値を使って指示した内容も同じく反映されています。
一方で#[Premise]で指示した「順守する製図規格:日本工業規格(JIS)」については、寸法線の引き方や標題欄の記載方法などが守られませんでした。同様に#supplementで指示した格子参照方式の適応も守られていません。
これでは実用レベルの図面として活用できないため、さらに指示を与えていきます。
2回目の指示と生成結果
生成AIは具体的な数値を用いながらプロンプトを与える事で、より正確なアウトプットを得られますが、今回順守されなかったJISの内容などを一つ一つ指示する事は効率的ではありません。
そのため、Chat GPT自身に改善案を網羅的に調査させ、検証させるプロンプトを与えてみました。
では、作成いただいた図を100点満点中10点とみなします。
私からみて100点と感じてもらえる図にするには何が必要かをパールグローイング法を用いて検証し、あなたが製図をやり直す上で必要な指示をステップバイステップで作成し、それを自ら実行してください。
なお、ハルシネーションは禁じます。
ここで新たに「パールグローイング法」というテクニックが登場しました。最も重要な情報「パール」を核に、関連する情報を追加していくことで、深い理解や創造的なアウトプットを求める手法です。
上記のプロンプトを用いた際の応答と生成された図面がこちらです。
1回目の生成結果からほぼ変化がありません。
日本工業規格(JIS)のように多くのルールを有する情報のみ与えたとしても、課題の抽出や改善の指示を洗い出すことはできますが、適切に図面を作成する能力は、2024年12月時点では確認できないという結果になりました。
3回目の指示と生成結果
2回目のプロンプトで失敗した日本工業規格(JIS)のルールの反映について、具体的な寸法情報などを指示として少しずつ与えてみました。
その際の応答はこちらです。
具体的なプロンプトを与えた事で、標題欄の描画が変化しました。「#図枠の右下に配置」や「#構成項目毎に枠を配置」する事などは守られています。
しかし、標題欄そのものが図枠からはみ出していたり、右下に適切に配置されていません。
1回目のプロンプトで「部品図面が図枠からはみ出す場合には、尺度を収まるように自動で調整してください」と指示した内容が守られていない事になります。
3回目の指示(修正版)と生成結果
先ほどの3回目の生成で失敗したこれまでの指示が守られれいない状況を改善すべく、修正したプロンプトで3回目の生成を再度やりなおしてみました。
その修正したプロンプトとその際の応答はこちらです。
具体的なプロンプトを与えた事で、標題欄の描画が変化しました。「#図枠の右下に配置」や「#構成項目毎に枠を配置」する事などは守られ、標題欄が図枠内に収まるように生成されました。
しかし「#Premise /や#Constarins、#supplementの指示を厳守した上で」というプロンプトがあるにもかかわらず、標題欄に記載すべき項目が減少しています。
プロンプトを変更すれば生成結果が変わり、良くなる可能性は見いだせたものの、具体的な内容でプロンプトを与えても、必ず守られた結果が出力されない可能性がある事も分かりました。
検証結果:Chat GPTを用いた図面作成は現状「具体的寸法を含んだ指示のみ描画する」レベルまでは可能
今回のChat GPTを用いた図面作成の検証では、「具体的寸法を含んだ指示のみ描画する」レベルまで可能である事が確認できました。日本工業規格に準拠した図面作成には課題を残しているのが実情です。
一方で、プロンプトを変更するトライアンドエラーの結果から、プロンプト次第で生成される図面の結果は変わる事が分かりました。
これらの結果から、プロンプトの具体的な内容を含め運用方法次第では生成AIから得られるメリットは大きく変わるという事が示唆されます。
しかし、今回のように生成AIを活用した図面作成の取り組みなど製造業に特化した情報を得ることは困難です。製造現場の改善に生成AIの活用を本気で進めていくのであれば、製造業に特化した生成AI活用のノウハウを持った企業の協力が不可欠と言えるでしょう。
本記事を作成した株式会社ファースト・オートメーションは、製造業に特化した生成AIを提供しております。上記の様な事例も含め、製造業における生成AI活用のご相談を幅広く受け付けています。
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製造DX.comを運営する株式会社ファースト・オートメーションは製造業に特化した生成AI「SPESILL(スペシル)」を提供しています。製造DX.comでは生成AIに関する研究開発の成果を投稿しています。