生成AI活用で変わるFMEA|効率化の方法と支援ツールを解説

生成AI活用で変わるFMEA|効率化の方法と支援ツールを解説
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製造業や設計業務で不可欠なFMEA(故障モード影響解析)。品質や信頼性の向上に寄与する重要な手法ですが、実施には多大な工数と専門知識が求められます。しかし、近年の生成AIの進化により、FMEAの効率化が可能になりつつあります。本記事では、生成AIを活用したFMEAの可能性や課題、具体的な活用方法について解説します。

FMEA実施の3つの課題

FMEAを実施する際、多くの企業が次の課題に直面します。

網羅性を確保するための工数の多さ

FMEAの実施には、製品や工程に対して潜在的な故障モードを網羅的に抽出するため、多くの工数が必要になります。
具体的には、各構成要素について故障モードの抽出、故障原因の特定、故障の影響の推定、機能の定義などについて議論をして決定しなければなりません。

関連記事:FMEA入門ガイド|リスク管理と品質向上のための必須手法

結果が担当者のレベルに依存する属人性

FMEAの結果は、分析を行う担当者の経験や知識に大きく依存します。これにより、同じ対象を分析しても担当者によって結果が異なることがあります。

結果管理の困難さ

FMEAは一度実施して終わりではありません。対策結果の反映や検討内容を次回の開発に活用することで、継続的な品質改善が実現します。
このため、製品や工程に関わる膨大な情報を体系的に記録・管理する必要があります。適切に管理しないと、せっかく得られた分析結果が次回以降の開発で活用されず、品質改善が停滞する恐れがあります。

FMEAに生成AIを使うことで解決できること

生成AIをFMEAのプロセスに取り入れることで、従来の方法では得られなかった多くの利点が期待されています。「①工数削減」「②網羅性の確保」「③標準化」の3つの観点からその詳細を解説します。

1. 工数削減

生成AIは、過去のデータやトラブル事例をもとにFMEAの初期段階の作業を効率化します。たとえば、NECは生成AIを活用して工程FMEAの表を自動生成し、生産性を25%向上させ、品質コストを15%削減する成果を得ています。

参考記事:日経クロステック「トラブル対処から工程FMEAの自動生成まで、NECが進める製造業の生成AI活用」

2. 網羅性の向上

生成AIは人間の知識や視点では見逃しやすい故障モードを過去データから抽出できます。また、異なる役割を設定することで多角的な視点を取り入れることも可能です。

3. 標準化の推進

生成AIを活用すれば、過去のデータを基に一貫性のある分析を行い、属人性を排除できます。これにより、経験の浅い担当者でも一定の品質を担保した分析が可能になります。

ChatGPTでのFMEA活用例

生成AIで有名な「ChatGPT」を使ってFMEAを実施する例を以下に示します。

プロンプト例

あなたは減速機製造の技術者でFMEAのプロフェッショナルです。
ステップバイステップでFMEAを実行してください。
1.減速機の構成要素としてギヤを分析対象とする
2.分析対象の故障モードを考えうる限り全て詳細に抽出する
3.FMEA表の項目に、それぞれについて検討する
4.結果を表形式で出力

#FMEA表の項目
構成要素
故障モード
故障のメカニズム/故障の原因
影響
影響度(1〜5)
発生度(1〜5)
検出度(1〜5)
評価点(RPN=影響度×発生度×検出度)
対策

#留意点
・ハルシネーションは禁じます。

出力結果

生成AIを使ったFMEAの出力結果
生成AIを使ったFMEAの出力結果:製造DX.com編集部作成

出力内容の課題と考察

出力結果には有益な点もありますが、以下の課題が残ります。

故障モードの指示の充実化が必要

具体例:故障モードに「異音」が含まれていたが、実際には異音は故障の影響(結果)であり、故障モードとしては不適切。
対策:網羅性も十分ではないため、「10個以上抽出」など数量を指定するプロンプトや補足指示が必要。

具体的な設計情報が不足すると、発生度や検出度の信頼性が低下する。

具体例:影響度はそれなりに妥当な値が出力されているが、発生度や検出度は構造上の詳細情報が不足しているため憶測で値を出力しており、そのまま利用することは難しい。
対策:設計図面など詳細な情報を補足して入力することが必要

総括

ChatGPTを用いたFMEAは、自然言語で指示できるため、誰でも手軽に分析を開始できたり、たたき台を一瞬で生成できたりと大きな利点があります。しかしながら、本例のように「異音」を故障モードとして提示するなど、誤った情報が含まれる可能性も有しています。また、発生度や検出度を正しく推定するには、実際の設計情報や過去の実績といった具体的なデータが不可欠であり、ChatGPTだけでは精度の高い数値を導き出すのは難しいと言えます。
ChatGPTによるFMEAは工数削減に効果的だが、回答の正確性を判断するには技術的知識が必要なため完全な自動化は難しいでしょう。

生成AI活用時の注意点

生成AIを取り入れることで、FMEAの効率性を向上させられる可能性がある一方で、生じる課題にも目を向ける必要があることが分かりました。ここでは、生成AI利用の際の注意点を説明します。

1. 虚偽の情報生成

生成AIは、与えられた文脈や学習データを基に情報を生成しますが、事実と異なる内容を提示することがあります。「ハルシネーション」と呼ばれ、FMEAにおいては誤った故障モードの抽出やリスク評価を引き起こす可能性があります。対策例として次のような方法を検討しましょう。

  • ハルシネーションを防ぐプロンプトの適用
  • 社内の正式な技術情報をAIに優先参照させる
  • 生成情報を人間が検証する工程の構築

2. データの提供方法

生成AIが精度の高い提案を行うためには、関連性の高い過去データを適切な形式で提供する必要があります。データが断片的であったり、フォーマットがバラバラであったり、更新されていなかったりすると、AIの提案の精度が低下する恐れがあります。

  • デジタル化の推進:過去の不具合や設計情報をデジタル上で管理し、常に最新の情報を生成AIに提供することで、適切な回答が期待できます。
  • 専門家の利用:生成AIに適した「情報の構造化」には専門家のノウハウが役にたちます。専門家を活用して、データの整備を行いましょう。
  • セキュリティ対策の強化:社外秘情報を含むデータを生成AIに提供する場合は、セキュリティ対策が必要であることも忘れないようにしてください。

3.再現性の確保

生成AIは、学習状況やパラメータ設定によって、同じプロンプトに対しても異なる結果を返す場合があります。これにより、分析の再現性や整合性が損なわれます。対策例としては、次のような方法が考えられます。

  • 使用モデルの固定:アップデートが頻繁に行われるAIサービスではなく、企業内で使用するモデルやパラメータを固定できる環境を構築。これにより、分析結果の一貫性を維持しやすくなります。
  • 人間によるチェック:AIの回答を最終決定とせず、人間による確認を行い精度と信頼性を確保します。

生成AIを使ったFMEAができるサービス2選

生成AIでFMEAを行う際の課題や注意点をクリアするためには、ChatGPTのほかにも、次のようなサービスを利用することも一つの手段です。ここでは、生成AIを使ったFMEAができる「Qualityforce」と「SPESILL」を紹介します。

Qualityforce

「Qualityforce」は、株式会社図研プリサイトが提供する製造業向けの再発防止プラットフォームです。
生成AIを活用して企業内に散在するトラブル情報を一元的にデータベース化し、FMEA(故障モード影響分析)表の故障モードを自動的に抽出します。これにより、経験やスキルに依存せず、リスクの洗い出しを効率的に行うことが可能となります。

さらに、表記揺れや表現の違いがあっても関連性の高いトラブル情報を検索できるため、クレーム対応や品質改善を迅速に支援します。

SPESILL

「SPESILL」は、株式会社ファーストオートメーションが提供するドキュメント分析AIサービスです。
生成AIを活用して製造業向けの知識検索や文書生成機能を得意とし、FMEAの支援を含む、製造業のさまざまな場面での生成AI活用を実現します。

特に、フローチャートやガントチャート、レイアウト図など、製造業特有の図表データの取り込みや生成に対応できる点が大きな特徴です。さらに、企業のニーズに合わせて設定や追加機能をカスタマイズできるため、特定の業務フローや専門用語への対応などにも柔軟に対応します。

最後に|新たな標準となりつつある生成AIを使ったFMEA

本記事では、生成AIをFMEAに活用するメリットと課題について解説しました。生成AIを導入することで、網羅的なリスク洗い出しや工数削減、分析の標準化といった効果が期待されますが、一方でハルシネーションや再現性などの課題に対処する必要もあります。

これらのポイントを踏まえ、組織の目的に合わせて導入を進めれば、品質信頼性の向上に大きく寄与するでしょう。 また、FMEAに限らず、多くの分野で既に生成AIを取り入れる動きが始まっています。JEITAの発表によると、生成AI市場の需要額は年平均47.2%のペースで増加する見通しです。

出典: 一般社団法人電子情報技術産業協会「JEITA、生成 AI 市場の世界需要額⾒通しを発表」
出典: 一般社団法人電子情報技術産業協会「JEITA、生成 AI 市場の世界需要額⾒通しを発表」

こうした背景から、生成AIの活用は今後の新たな標準となり、企業が競争力を維持するための重要な要因となる可能性があります。まずはFMEAという小さな領域から導入して、その効果を確認してみてはいかがでしょうか。

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製造DX.comを運営する株式会社ファースト・オートメーションは製造業に特化した生成AI「SPESILL(スペシル)」を提供しています。製造DX.comでは生成AIに関する研究開発の成果を投稿しています。

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