生成AI動向Dassault Systèmes×NVIDIAが仕掛ける「Industry World Models」——3DEXPERIENCE上のAIエージェントAura・Leo・Marieが描く設計・製造の新しい形

もくじ
「すべてがバーチャルツインで表現される時代」——Jensen Huangの宣言
2026年2月3日、Dassault Systèmesは米テキサス州ヒューストンで開催した自社イベント「3DEXPERIENCE World」で、NVIDIAとの長期戦略提携を発表しました。登壇したNVIDIAのジェンスン・フアンCEOとDassault SystèmesのパスカルダロスCEOが共に強調したのが、「すべてがバーチャルツイン(Virtual Twin)で表現される時代が来る」という世界観でした。
両社が掲げるのは、ミッションクリティカルなAIを産業横断で支える共通アーキテクチャの構築です。そしてその中核に据えられているのが、「Industry World Models(産業ワールドモデル)」と呼ばれる物理ベースのシミュレーションモデル群です。
Industry World Modelsとは何か
Industry World Modelsは、製品・工場・さらには生体システムまでを「作る前に仮想空間で再現する」ための物理法則ベースのモデル群です。CADデータを単にビジュアライズするだけでなく、以下を統合的に表現することを目指しています。
- 物理法則: 流体・熱・構造・電磁・化学反応などの第一原理
- 製造プロセス: 加工・組立・検査・梱包といった工程の動的挙動
- 人と機械の協働: オペレーター動線、安全境界、協働ロボットの挙動
- ライフサイクル: 設計→製造→運用→保守→リサイクルまでの通し
NVIDIAのOmniverseとNemotronオープンモデル、Dassault SystèmesのIndustry World Modelsを組み合わせることで、「3DEXPERIENCE Agentic Platform」というエージェント駆動型の開発・運用基盤が実現します。工場自体が、静的な物理資産から「設計・シミュレーション・運用まで仮想ツインとして生きる」システムへと姿を変える、という視点です。
AIエージェント「Aura」「Leo」「Marie」——名前が示す役割
3DEXPERIENCE Agentic Platformには、個性の異なる3体のバーチャルコンパニオン(AIエージェント)が搭載されます。名前の由来が、そのまま役割を示しています。
| エージェント | 名前の由来 | 得意領域 |
|---|---|---|
| Aura | Assisting YoU to Realize your Ambitions | ユーザーの意図を汲んだガイダンス・チュータリング |
| Leo | Leonardo da Vinci(レオナルド・ダ・ヴィンチ) | 設計・アイデアの発想、分野横断の知識統合 |
| Marie | Marie Curie(マリー・キュリー) | 科学的推論、実験計画、材料・プロセス分析 |
これらのエージェントは、単なるチャット窓口ではなく、3DEXPERIENCE上のデータ(CAD、PLM、材料DB、シミュレーション結果、製造パラメータ)を文脈として取り込み、信頼できるアクション可能な提案を返すことを目指しています。
「主権AIクラウド」という補助線——OUTSCALEとの連携
今回の提携では、Dassault Systèmesの主権クラウド「OUTSCALE」上に、3大陸にわたってNVIDIAパワードのAIファクトリー(AI用データセンター)を展開する構想も打ち出されました。これは、欧州企業が自社の設計データや工場データを、データ主権(Data Residency)とセキュリティ要件を満たした環境でAIに処理させるための仕掛けです。
生成AIを本気で製造業に導入するうえで、「どの国の、誰が管理するサーバーで、どのモデルが動いているか」は避けて通れない論点です。Dassault×NVIDIAはここに、主権クラウドという形で明確な答えを提示しました。
エンジニアを「置き換える」のではなく「増幅する」
フアンCEOとダロスCEOが口を揃えて強調したのは、「AIの目的はエンジニアを置き換えることではなく、増幅すること」だという点です。AIエージェントが探索的・反復的な作業を引き受けることで、設計者・エンジニアは創造性と判断力に集中できる——これが両社の共通スタンスです。
この姿勢は、日本の製造業が生成AIを社内展開する際のメッセージングにもそのまま使えます。現場が生成AIに抵抗感を持つ最大の理由は「自分の仕事がなくなる」という懸念であり、それを技術リーダーが明確に否定しながら導入を進めることが実務上も重要です。
日本の製造業・装置メーカーへの示唆
このDassault×NVIDIAの発表は、日本企業にとって以下の3点を示唆します。
第一に、バーチャルツインは「高度な設計ツール」から「業務プラットフォーム」になります。今までCAD/PLMの延長で語られてきたデジタルツイン/バーチャルツインが、生成AIエージェントの動く土台として再定義されつつあります。PLMをどのベンダーでどう運用するかは、今後のAI戦略と一体で判断すべきテーマです。
第二に、「設計データ×現場データ×AIエージェント」の三位一体が競争軸になります。CADデータだけでも、現場のIoTデータだけでも不十分で、両方をIndustry World Modelsの文脈でつなぎ、エージェントが参照できる状態に整えることが必要です。
第三に、主権AI(Sovereign AI)は日本でも議論すべきです。自社の機微な設計データを海外のパブリッククラウドと外資系ベンダーの生成AIに流して良いかは、サプライチェーン全体で合意すべき重要論点です。Dassault×NVIDIAの主権クラウド戦略は、この議論の1つのモデルケースとなります。
まとめ
Dassault Systèmes×NVIDIAが発表した3DEXPERIENCE Agentic PlatformとIndustry World Modelsは、バーチャルツインをAIエージェントの土台として再定義する試みです。Aura・Leo・Marieという3体のエージェントが、設計・製造・科学の各領域でエンジニアを「増幅」させるという思想は、日本の製造業にとってもPLM/設計基盤戦略と生成AI戦略を一体で考えるきっかけとなるでしょう。
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出典
- NVIDIA Blog「Everything Will Be Represented in a Virtual Twin, NVIDIA CEO Jensen Huang Says at 3DEXPERIENCE World」
- Dassault Systèmes Press Release「Dassault Systèmes and NVIDIA Partner to Build Industrial AI Platform Powering Virtual Twins」(2026年2月3日)
- The Next Platform「Dassault And Nvidia Bring Industrial World Models To Physical AI」(2026年2月4日)
- CIO「Nvidia and Dassault Systèmes combine digital twins and AI in industry world models」

