元SpaceXエンジニアが挑む「AI×金属3Dプリンティング」— Freeformが6,700万ドル調達で目指す自律型工場

元SpaceXエンジニアが挑む「AI×金属3Dプリンティング」— Freeformが6,700万ドル調達で目指す自律型工場
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はじめに:金属3Dプリンティングに「AI」という革命を持ち込んだスタートアップ

製造業において、金属部品の製造リードタイムは数週間から数ヶ月かかることが常識でした。特に航空宇宙や防衛分野では、高精度な金属部品の少量生産が求められますが、従来の切削加工や鋳造では設計変更のたびに金型修正や工程再設計が必要となり、開発スピードのボトルネックとなっていました。

この課題に、AI(人工知能)とレーザー技術を組み合わせた全く新しいアプローチで挑んでいるのが、米ロサンゼルス拠点のスタートアップFreeform(フリーフォーム)です。2026年2月には6,700万ドル(約100億円)のシリーズB資金調達を完了し、NVIDIAやFounders Fundなど著名投資家からの支援を受けて、「AI駆動の自律型金属3Dプリンティング工場」という前例のない製造モデルを構築しています。

Freeformとは? — 元SpaceXエンジニアが創業したAIネイティブ製造企業

Freeformは2018年、元SpaceXのエンジニアであるErik Palitsch(エリック・パリッチュ)氏とThomas Ronacher(トーマス・ロナッハー)氏によって創業されました。SpaceXでロケット部品の製造に携わった経験から、「既存の金属製造プロセスは遅すぎる」という問題意識を持ち、AI技術を製造プロセスの根幹に組み込んだ新しい3Dプリンティングシステムの開発に着手しました。

同社は長期間のステルスモードを経て、2023年に正式に事業を公開。「ソフトウェア定義の自律型プリンティング工場」というコンセプトで注目を集めました。

資金調達の経緯

Freeformの主な資金調達ラウンドは以下の通りです。

時期ラウンド金額主要投資家
2024年シリーズA1,400万ドルNVentures(NVIDIA)、AE Ventures
2026年2月シリーズB6,700万ドルFounders Fund、NVentures、Two Sigma Ventures、Threshold Ventures

コア技術:AIがリアルタイムで制御する金属レーザー溶融

Freeformの技術の最大の特徴は、「AIネイティブ」な製造プラットフォームであることです。従来の金属3Dプリンターが事前設定されたパラメータで動作するのに対し、Freeformのシステムはプリント中にリアルタイムでプロセスを制御・最適化します。

GoldenEye — 現行の18レーザーシステム

Freeformの現行システム「GoldenEye(ゴールデンアイ)」は、18本のレーザーを同時に使用して金属粉末を溶融・積層します。2本の並列コンベアがプレートをレーザービームの下に送り込む仕組みで、従来の金属3Dプリンターと比べて大幅な生産速度向上を実現しています。

このシステムの中核にあるのがAI制御です。

  • リアルタイムセンシング:プリント中の金属の溶融状態を高精度センサーで常時監視
  • 予測制御:AIが各レイヤーの品質を予測し、レーザー出力や走査速度をリアルタイムで調整
  • 学習型品質保証:毎回のプリントデータから学習し、次のプリントの精度を向上

Skyfall — 次世代の数百レーザープラットフォーム

2026年前半には、次世代プラットフォーム「Skyfall(スカイフォール)」の発表が予定されています。Skyfallは数百本のレーザーを搭載し、1日あたり数千キログラムの高品質金属部品を製造する能力を持つとされています。これが実現すれば、金属3Dプリンティングの生産量は従来の数十倍に達する可能性があります。

NVIDIAとの戦略的提携

Freeformの技術基盤を支えているのが、NVIDIAとの深い提携関係です。NVIDIAの投資部門NVenturesが出資しているだけでなく、Freeformは工場内にNVIDIAのH200クラスGPUクラスターを配置し、製造プロセス全体のリアルタイムシミュレーションを実行しています。製造データから物理シミュレーションを大規模に学習させることで、従来は不可能だった精度でのプロセス制御を実現しています。

ビジネスモデル:プリンターを売らない「工場サービス」

Freeformのビジネスモデルは、他の3Dプリンターメーカーとは一線を画しています。同社は自社開発のプリンターを販売するのではなく、「工場サービス」として部品製造を受託します。顧客は設計データを送るだけで、Freeformの自律型工場が高品質な金属部品を製造して納品するという仕組みです。

このモデルには以下のメリットがあります。

  • 顧客側の設備投資が不要:数億円する金属3Dプリンターを購入する必要がない
  • 設計変更への柔軟性:金型不要のため、設計変更が生産コストや納期に影響しない
  • スケーラビリティ:Freeformが工場を増やすことで、顧客は自社設備を増やさずに生産量を拡大できる

導入事例と対象産業

Freeformは現在、以下の分野で実際に顧客への部品供給を行っています。

  • 航空宇宙:Boeing(ボーイング)が初期の協力企業として、航空・防衛用の金属部品製造にFreeformの技術を活用
  • ロケット:Ursa Major(アーサ・メジャー)がロケットエンジン部品の製造にFreeformを利用。設計変更を頻繁に行いながら、数日で一貫した高品質部品を入手
  • 先端エネルギー・自動車・産業機械:幅広い分野で有償顧客を獲得済み

日本の製造業への示唆

Freeformの事例は、日本の製造業に対していくつかの重要な示唆を与えています。

1. 「AI×製造」は品質検査だけではない

日本の製造業でAI活用というと、外観検査や予知保全が中心でした。しかしFreeformは、製造プロセスそのものをAIで制御するという、より根本的なアプローチを採用しています。加工中にリアルタイムでパラメータを最適化する「インプロセスAI制御」は、日本の精密加工分野でも大きな可能性を秘めています。

2. 「売らずにサービスとして提供する」製造モデル

Freeformが装置を売らず、部品製造サービスとして提供するモデルは、日本の装置メーカーにとっても参考になります。高度な技術を装置販売ではなくサービスとして提供することで、より広い顧客層にリーチし、継続的な収益モデルを構築できる可能性があります。

3. GPUコンピューティングの製造現場への導入

NVIDIAのGPUを製造現場に直接配置してリアルタイムシミュレーションを行うFreeformの手法は、日本の工場でも応用可能です。デジタルツインとAI制御を組み合わせた次世代スマートファクトリーの具体的な実装例として、参考になるでしょう。

まとめ

Freeformは、AI技術を金属3Dプリンティングの根幹に組み込むことで、「速度・品質・柔軟性」の三拍子を揃えた新しい製造パラダイムを構築しようとしています。元SpaceXエンジニアの技術力、NVIDIAとの戦略的提携、そして6,700万ドルのシリーズB資金を武器に、2026年前半に発表予定の次世代プラットフォーム「Skyfall」が業界にどのようなインパクトを与えるか、注目です。

日本の製造業においても、「AIが製造プロセスそのものを自律的に最適化する」という発想は、今後のスマートファクトリー構想を考える上で重要なヒントとなるでしょう。

出典

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