幾何公差とは?記号14種類の一覧とデータムの意味・図面の読み方を図解で解説【2026年版】

この記事の要点
- 幾何公差とは、部品の形・姿勢・位置・振れの許容範囲を指定する図面指示です。寸法公差だけでは「曲がり」「傾き」「ずれ」を規制できないため、それを補います。
- JIS B 0021:1998 で規定される記号は全14種類。形状公差6・姿勢公差3・位置公差3・振れ公差2に分類されます。
- データムとは、姿勢・位置・振れを測るときの理論的に正確な基準です。形状公差は原則データム不要、それ以外はデータムが必要です。
- 選び方は「何のばらつきを止めたいか」→「基準が要るか」の2段階で決めると迷いにくくなります。
- 厳しくするほど検査工数と加工コストが上がるため、機能上必要な形体だけに指示するのが原則です。
図面に「⏥ 0.05 A」のような枠付きの記号が並んでいる。寸法公差は読めるが、この記号が何を意味していて、なぜ必要なのかは説明できない——製造業で図面を扱う人なら、一度は突き当たる場面です。
この記事では、幾何公差の役割を「寸法公差では規制できないもの」という視点から整理し、14種類の記号一覧、データムの意味、そして実務でどれを選べばよいかの判断手順までを図解でまとめます。
幾何公差とは?寸法公差だけでは形が決まらないのはなぜ?
幾何公差とは、部品の形状・姿勢・位置・振れが、どこまでずれてよいかを指定する図面指示のことです。寸法公差が「2点間の距離のばらつき」しか規制しないのに対し、幾何公差は「その形体そのものの幾何学的な狂い」を規制します。
具体例で考えます。長さ100mm・厚さ10±0.1mm の板を作るとき、板の任意の場所を測って厚さが 9.9〜10.1mm に入っていれば、寸法公差は合格です。しかし、この板が全体として弓なりに反っていても、厚さの測定値自体は合格し続けます。寸法公差は「反り」を検出できないためです。
そこで、この板の合わせ面に「平面度 0.05」と指示します。平面度は、対象の面が 0.05mm 離れた2枚の平行な平面の間に収まっていることを要求する幾何公差です。これにより、寸法とは独立して「反りの上限」を図面で決められます。
寸法公差との関係は、次のように整理できます。
| 観点 | 寸法公差(サイズ公差) | 幾何公差 |
|---|---|---|
| 規制する対象 | 2点間の距離(サイズ) | 形・向き・位置・振れ |
| 指示の書き方 | 10±0.1、φ30H7 など寸法に付記 | 公差記入枠(記号・公差値・データム) |
| 検出できるもの | 寸法が大きい/小さい | 反り・曲がり・傾き・芯ずれ・振れ |
| 基準(データム) | 不要 | 姿勢・位置・振れの公差では必要 |
| 主な根拠規格 | JIS B 0401(サイズ公差・はめあい) | JIS B 0021(幾何公差表示方式) |
寸法公差そのものの定義は、はめあいの記事で次のように整理しています。
寸法公差とは、図面で指定した基準寸法に対して、製造上許される寸法のばらつきの幅のことです。
はめあいとは?H7・g6の意味とすきまばめ・しまりばめの違い・選び方を図解で解説【2026年版】
幾何公差の記号は何種類ある?14種類の一覧と4つの分類
JIS B 0021:1998 で規定される幾何公差の記号は全14種類です。規制する内容によって、形状公差6種類・姿勢公差3種類・位置公差3種類・振れ公差2種類の4グループに分かれます。

グループごとの役割は、次のように押さえると実務で迷いません。
| 分類 | 含まれる記号 | 規制する内容 | データム |
|---|---|---|---|
| 形状公差(6) | 真直度・平面度・真円度・円筒度・線の輪郭度・面の輪郭度 | その形体単独の形の狂い | 原則不要 |
| 姿勢公差(3) | 平行度・直角度・傾斜度 | 基準に対する向き(傾き) | 必要 |
| 位置公差(3) | 位置度・同軸度/同心度・対称度 | 基準に対する位置のずれ | 必要 |
| 振れ公差(2) | 円周振れ・全振れ | 回転させたときの振れ | 必要 |
公差記入枠はどう読む?
幾何公差は、長方形を区切った「公差記入枠」で図面に指示します。左から順に、幾何特性の記号/公差値/データム記号を記入する決まりです。たとえば「⌖ φ0.2 A B」は、データムAとBを基準として、位置度の公差域が直径0.2mmの円筒であることを意味します。
- 1区画目:幾何特性の記号(真直度、位置度など14種類のいずれか)
- 2区画目:公差値。公差域が円筒または円の場合は数値の前に φ を付ける
- 3区画目以降:データム記号を優先順位の高い順に A・B・C と並べる
この読み方は、投影図の読み方が身についていることが前提になります。図面を読む順序については、第三角法の記事で次のように整理しました。
投影図を読むときは、投影法の確認から始め、正面図を起点に他の図へ視線を移すのが基本の手順です。
第三角法とは?第一角法との違いと三面図の見方・投影図の読み方を図解で解説【2026年版】
データムとは?なぜ姿勢・位置・振れには基準が要るのか?
データムとは、姿勢公差・位置公差・振れ公差を評価するときに用いる、理論的に正確な基準のことです。図面では、黒塗りまたは白抜きの三角形と四角い枠に入れた英大文字(A、B、C…)で示します。
データムが必要になる理由は単純です。「平行度0.05」とだけ書かれていても、何に対して平行なのかが決まらなければ測定できません。基準となる面や軸を指定して初めて、傾きの大きさを一意に評価できます。一方、平面度や真円度は「その面/その円だけで完結する形の良し悪し」なので、基準を必要としません。
実務で押さえておきたいのは、データムの優先順位です。公差記入枠に「A B C」と並べたとき、Aが第一次データム、Bが第二次、Cが第三次となり、部品を測定治具に据える順序を規定します。順番を入れ替えると、同じ部品でも測定結果が変わることがあります。
- 第一次データム(A):最も広い面や機能上の主基準。姿勢を最初に固定する
- 第二次データム(B):残った回転方向の自由度を拘束する
- 第三次データム(C):最後の自由度を拘束し、位置を一意に決める
なお、幾何公差を社内標準として整備しても、参照されなければ図面のばらつきは減りません。標準が使われなくなる構造については、設計標準の記事で次のように指摘しています。
参照コストが判断コストを上回っている限り、参照しない選択が合理的であり続けます。
設計標準はあるのに、誰も見ていない——社内設計標準が形骸化する構造と、更新され続ける仕組みの条件
どの幾何公差を指示すればよい?選び方の判断フローとは?
幾何公差の選定は、「何のばらつきを止めたいか」を先に言葉にし、次に「基準が要るか」を判断する2段階で進めると迷いにくくなります。記号から入ると、似た記号の使い分けで手が止まります。

装置設計で頻出する場面と、対応する指示の例を挙げます。
| 設計上の狙い | 指示例 | 選ぶ理由 |
|---|---|---|
| ベースプレートの合わせ面を密着させたい | 平面度 0.05 | 反りを止めたいだけで、基準面は不要 |
| ボルト穴に相手部品を確実に通したい | 位置度 φ0.3 A B C | 穴位置のずれを基準からの位置として規制する |
| 取付面に対して側面を直角に出したい | 直角度 0.1 A | 取付面Aに対する向きの狂いを止める |
| 回転軸に取り付ける外周の振れを抑えたい | 円周振れ 0.05 A-B | 2つの軸受部を基準に回転時の振れを規制する |
| 長尺のシャフトの曲がりを抑えたい | 真直度 0.1 | 軸線そのものの曲がりを単独で規制する |
幾何公差の指示でよくある失敗は?3つのパターン
失敗1:全部の面に厳しい公差を付けてしまう
幾何公差は、厳しくするほど加工工程と検査工程の両方でコストが上がります。とくに位置度や輪郭度は三次元測定機での測定が前提になりやすく、検査時間が伸びます。機能上ばらつきが問題になる形体だけに指示し、それ以外は普通公差(JIS B 0419)に任せるのが原則です。
失敗2:データムを機能と無関係な面に置く
データムは「組み立てたときに実際に相手部品と接する面」に置くのが基本です。図面上で寸法を入れやすいという理由だけで基準を選ぶと、図面の合否と実機の組みやすさが一致しなくなります。組立時にどこで位置が決まるのかを確認してから決めます。
失敗3:測定方法を確認せずに指示する
指示した幾何公差が、自社または加工先の測定設備で評価できるかは事前確認が必要です。ノギスやマイクロメータでは幾何公差の多くを直接測れず、定盤とダイヤルゲージ、あるいは三次元測定機が要ります。測れない指示は、実質的に「無いのと同じ」になります。
FAQ(よくある質問)
幾何公差は必ず指示しないといけませんか?
いいえ、必須ではありません。個々に指示がない形体には、図面の注記で指定した普通公差(JIS B 0419)が適用されます。ただし、機能上ばらつきが問題になる形体は個別に指示しないと、普通公差の範囲まで許すことになります。
同軸度と円周振れはどう使い分けますか?
同軸度は軸線そのもののずれを規制し、円周振れは回転させたときの表面の動きを規制します。円周振れには真円度の誤差も含まれるため、測定は簡単ですが規制内容は広くなります。回して使う部品で、ダイヤルゲージで検査したい場合は円周振れが実用的です。
公差値の前に付く φ にはどんな意味がありますか?
公差域が円または円筒であることを示します。位置度で「φ0.2」と書けば公差域は直径0.2mmの円筒になり、φを付けない「0.2」は平行2平面の間という意味になります。穴位置の指示では、φ付きのほうが実際の組立条件に近く、許容範囲も広くなります。
ISO と JIS で記号は違いますか?
幾何公差の記号体系は ISO 1101 と整合が取られており、JIS B 0021 は ISO を基礎として作られています。海外の図面でも記号自体はほぼ同じものが使われます。ただし規格の版によって用語や適用条件が更新されているため、客先図面では表題欄の適用規格を確認します。
まとめ
幾何公差は、寸法公差では規制できない「形・向き・位置・振れ」を図面で決めるための指示です。記号は14種類あり、形状公差・姿勢公差・位置公差・振れ公差の4グループに整理すると全体像がつかめます。データムは姿勢・位置・振れを評価するための基準であり、組立時に実際に位置が決まる面へ置くのが基本です。
実務では、記号を覚えることよりも「何のばらつきが問題になるのか」を言葉にすることが先です。そこが決まれば、使うべき記号は4グループのうち1つに絞り込めます。
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図面指示のばらつきを整理したい方へ
幾何公差の指示が担当者ごとに違う、過去図の指示根拠がたどれない——こうした状態は、設計者個人のスキルではなく、指示の判断が図面に残らない仕組みの問題であることがほとんどです。New Innovationsでは、設計・調達・品質の業務を分解し、どこまでを仕組みでそろえられるかを整理する業務診断を行っています。
出典
- JIS B 0021:1998「製品の幾何特性仕様(GPS)— 幾何公差表示方式 — 形状,姿勢,位置及び振れの公差表示方式」(幾何特性14種類の記号と公差記入枠の規定)
- JIS B 0022:1984「幾何公差のためのデータム」(データムおよびデータム系の表示方法)
- JIS B 0419:1991「普通公差 — 第2部:個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差」
- JIS B 0401-1:2016「製品の幾何特性仕様(GPS)— 長さに関わるサイズ公差の ISO コード方式 — 第1部」(寸法公差との対比)
- ISO 1101(Geometrical product specifications (GPS) — Geometrical tolerancing)










