公差はどこまで厳しく指示すべきか?——普通公差で足りる寸法・個別に詰める寸法の見分け方と、詰めても効かない4条件【2026年版】

「迷ったら公差は厳しめに」と考えがちですが、公差を詰めるほど加工と検査の手間は増え、それでも組み立ての不具合が減らない場面は少なくありません。この記事では、普通公差で足りる寸法と個別に詰める寸法の見分け方、指示の種類の使い分け、厳しくしても品質が上がらない条件を、JISの普通公差の考え方に沿って整理します。
この記事の要点
- 公差は「この寸法が狂うと何が起きるか」から逆算して決めます。機能に関わらない寸法は普通公差に任せます。
- JIS B 0405 は、工場の通常の加工精度を超えて公差を緩めても、経済的な利益は通常得られないとしています。普通公差は「既定値」として使うのが合理的です。
- 個別に詰めるのは、はめあい・位置決め・摺動・シールのように、狂うと機能が止まる形体に絞ります。
- 寸法公差・幾何公差・表面粗さは、縛る対象で選びます。
- 測れない・相手部品が粗い・温度で動く・根拠がないの4条件では、公差を詰めても品質は上がりません。
この記事はどんな判断に役立つ?
この記事が支援する判断:機械設計の担当者が、出図の前に「どの寸法に個別の公差を書き、どこを普通公差に任せるか」を決める場面を支援します。公差やはめあい記号の意味そのものは寸法公差・はめあいの基本を解説した記事で扱っており、本記事は公差をどこまで厳しくするかの判断に絞っています。
公差はどこまで厳しく指示すべきか?
結論から言えば、普通公差を既定値にし、機能が普通公差より小さい公差を求める形体だけを個別に詰めます。判断は図1の4段階で進めます。最初に書き出すのは公差の値ではなく、その寸法が狂ったときに起きることです。「軸が入らない」「位置がずれて穴が合わない」「油が漏れる」と書ける寸法が、個別に公差を検討する候補になります。
外形の逃げや面取りのように、多少狂っても機能が変わらない寸法は普通公差に任せます。すべての寸法に個別の公差を書くと、加工先は大事な寸法を読み取れず、すべてを慎重に加工して測ることになり、その手間が見積と納期に表れます。
なぜ普通公差を「既定値」にするのか?
普通公差の値が、工場が通常の加工で出せる精度に合わせて決められているからです。JIS B 0405 の附属書Aは、「工場の通常の加工精度に対応する公差値を超えて公差を大きくしても,通常,生産の経済性における利益は得られない」と述べています(出典:JIS B 0405:1991 附属書A.2)。同じ附属書は、直径35mmの形体に±1mmを指定しても、±0.3mmの普通公差と比べて利益はないという例も挙げています。緩くしても安くならず、厳しくすれば高くなるのが公差です。
普通公差の値と等級は、どう選ぶのか?
表1は、長さ寸法に対する普通公差の許容差の一部です。図面の表題欄付近に「JIS B 0405-m」のように等級を書くと、個別の指示がない寸法すべてにこの値が適用されます。
| 公差等級 | 3を超え6以下 | 6を超え30以下 | 30を超え120以下 | 120を超え400以下 | 400を超え1000以下 |
|---|---|---|---|---|---|
| f(精級) | ±0.05 | ±0.1 | ±0.15 | ±0.2 | ±0.3 |
| m(中級) | ±0.1 | ±0.2 | ±0.3 | ±0.5 | ±0.8 |
| c(粗級) | ±0.3 | ±0.5 | ±0.8 | ±1.2 | ±2 |
等級は、加工先が通常の加工で安定して出せる精度で選びます。自社の図面がどの等級で出ているかは、過去図面の表題欄をそろえて確かめておくと判断がぶれません。普通公差の位置づけは、過去記事でも次のように整理しています。
機能上きびしさが必要な箇所だけ個別に公差を指定し、それ以外は普通公差に任せるのが効率的な書き方です。
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個別に詰めるべき寸法は、どう見分けるのか?
見分ける基準は、「相手部品と関係する形体か」と「狂うと機能が止まるか」の2つです。単独で完結する寸法は、多くは普通公差で足ります。一方、軸と穴、位置決めピンと穴、摺動する面のように相手がいる形体は、両方のばらつきが重なって機能に効きます。表2は、形体の働きごとに指示の目安をまとめたものです。
| 形体の働き | 個別に詰めるか | 主な指示 | 普通公差に任せてよい条件 |
|---|---|---|---|
| はめあい面(軸と穴) | 詰める | はめあい記号+必要なら円筒度・粗さ | すきまが大きくガタを許す用途 |
| 位置決め穴・ピン穴 | 詰める | 位置度(データムを指定) | 長穴などで組立時に位置を調整できる |
| 摺動面・回転面 | 詰める | 表面粗さ+平面度や真円度 | 低速・短時間で摩耗が問題にならない |
| シール面・Oリング溝 | 詰める | 寸法公差+表面粗さ | 漏れを許す用途や、別部品で封止する |
| ボルトの通し穴 | 多くは任せる | 穴径は普通公差、位置は必要に応じて位置度 | 穴径に十分な余裕がある |
| 外形・逃げ・面取り・肉抜き | 任せる | 普通公差 | ほぼすべての場合 |
「詰める」形体でも、値は相手部品と組んだときに許せるすきまや位置ずれの上限を先に決め、両方の部品に割り振って決めます。軸受まわりのはめあいはベアリングの記事で扱っています。
寸法公差・幾何公差・表面粗さは、どれで指示するのか?
大きさを縛るなら寸法公差、形・傾き・位置を縛るなら幾何公差、面の細かな凹凸を縛るなら表面粗さを使います(図2)。寸法公差だけを厳しくしても、穴の位置や面の反りは縛れません。幾何公差の記号とデータムの読み方は幾何公差の記事で整理しています。
はめあい面のように、3つの指示を重ねる必要がある形体もあります。ただし重ねるほど加工と検査の工程は増えるため、それぞれが機能のどの狂いを防ぐのかを説明できる場合に限ります。はめあいの記事でも、寸法公差だけでは足りない理由を次のように書いています。
見落とされやすいのは、はめあいは寸法公差だけでは成立しないという点です。
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表面粗さは前例踏襲で厳しくなりやすい指示です。表面粗さの記事では、「粗さの要求を1ランク厳しくすると、多くの場合、加工工程が1つ増える」と説明しています(表面粗さの記事)。
公差を詰めても効かない4条件——厳しくするのを避けるべきなのはどんなときか?
次の4つに当てはまる場合、詰めた公差は加工費と検査工数を増やすだけで、組み立てや動作の不具合は減りません。値を小さくする前に確かめてください。
- その公差を測る手段がない——測定器の分解能が公差の幅に対して粗いと、合否を判定できません。目盛0.05mmのノギスで±0.01mmは判定できず、測定方法から決め直す必要があります。
- 相手部品のばらつきのほうが大きい——組み合わせる相手が普通公差のままなら、片側だけを詰めても組み合わせのばらつきはほとんど縮みません。
- 温度や材料で動く量より小さい——アルミの線膨張係数はおよそ23×10⁻⁶/Kで、長さ100mmの部品は10℃の差で約0.023mm伸びます。測る温度を決めずに数µmの公差を書いても、判定が安定しません。
- 「前の図面がそうだったから」以外の根拠がない——機能の説明がつかない厳しい公差は、流用のたびに引き継がれ、加工先の見積を押し上げ続けます。
測定器の分解能と読み取りの誤差についてはノギスとマイクロメータの記事で扱っています。4つ目の条件は、図面に結果だけが残り、決めた理由が残らないことから起きます。
公差の値と根拠は、どう決めて残すのか?
値は、機能が許す範囲と、加工先が通常の加工で出せる精度の両方から決めます。機能が許す範囲が普通公差より狭いときだけ、その範囲に収まる値を個別に書きます。加工先には見積の段階で「この寸法はどの加工で、どの程度に収まるか」を聞いておくと、無理な公差に気づけます。
決めた値には、短くてもよいので理由を残します。「ベアリング外輪の静止側のため」「位置決めピンで2部品の穴を合わせるため」と書いておけば、流用設計や設計変更のときに、緩めてよい公差と守るべき公差を区別できます。外注に出す前の確認の順番は出図前チェックの記事で整理しています。
まとめ——公差は「機能の説明がつく寸法」だけを詰める
公差は、機能→普通公差で足りるか→指示の種類→値と根拠の順に決めます。普通公差を既定値にし、狂うと機能が止まる形体だけを個別に詰めます。測れない、相手部品のほうが粗い、温度で動く量より小さい、根拠がない——この4つに当てはまる公差は、詰めても品質を上げません。過去の類似部品でどの公差を採用し、何が起きたかを引ける状態にしておくと、次の図面の判断が速くなります。
過去の類似図面でどの公差を指示していたかは、図面が紙やPDFのまま散らばっていると確かめにくい情報です。紙とPDFのまま眠っている過去図面を、AIで検索できる資産に変えるクラウドサービス「図面バンク」の仕組みを見る
よくある質問(FAQ)
普通公差は、中級(m)と精級(f)のどちらを指示すればよいですか?
加工先が通常の加工で安定して出せる精度に合わせて選びます。JIS B 0405 も、公差等級を選ぶときは個々の工場で通常に得られる加工精度を考慮するよう求めています。精度が必要な寸法だけを個別に指示します。
公差を緩めれば、加工費は必ず下がりますか?
必ずしも下がりません。JIS B 0405 の附属書Aは、工場の通常の加工精度に対応する値を超えて公差を大きくしても、通常は経済的な利益が得られないとしています。費用に効くのは、普通公差より厳しい個別の公差を減らすことです。
普通公差を少し外れた部品は、不合格にしなければいけませんか?
JIS B 0405 は、特に明示した場合を除き、普通公差を超えた工作物でも機能が損なわれない場合には自動的に不採用としてはならないとしています。機能に関わる寸法は個別に公差を書き、合否の基準をはっきりさせておくことが大切です。
出典
- 日本産業規格 JIS B 0405:1991(ISO 2768-1:1989)「普通公差-第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」2.一般事項・表1・6.採否・附属書A.2 本文(2026年10月6日に本文と表を確認)










