不良品の写真を生成AIに見せると、どこで外すのか?——写真だけで分かる不良・分からない不良と、人が現物で確かめる範囲【2026年版】

この記事の要点
- 不良品の写真を生成AIに見せて分かるのは「何が写っているか」までです。不良がなぜ起きたかは、写真の外にある記録と現物で決まります。
- 産業用の外観画像で生成AIを試した公開ベンチマーク(MMAD・ICLR 2025)では、GPT-4o の平均正答率は 74.9% で、論文自身が産業の要求には遠く及ばないと述べています。
- 同じ評価で最も低かったのは不良の位置を答える問題(55.6%)で、専門家(92.3%)との差が最も大きく開きました。
- 写真は、不良の見た目を言葉にする、種類の候補を挙げる、確かめる項目を並べる、の3つに使い、合否と原因は人が決めます。
- 出荷の合否判定、限度見本で決める不良、安全や法令に関わる不良には向きません。
この記事が支援する判断:品質保証や製造の担当者が、不良品の写真を生成AIに見せて報告書や原因調査に使う前に、「写真から何を聞いてよく、どこから先を現物と記録で確かめるか」と「AIに見せない不良はどれか」を決める場面を支援します。
不良が出たとき、スマートフォンで撮った写真を生成AIに見せて「この不良の原因は何か」と聞けば、それらしい答えはすぐに返ってきます。結論から言えば、その答えは写真に写った見た目からの推測であり、原因の特定ではありません。生成AIに任せてよいのは見た目を言葉にする作業までで、不良かどうかの判定と原因の決定は、現物と工程の記録で人が行います。本稿では、公開された評価結果をもとに、写真で分かること・分からないことの境目を整理します。
不良品の写真を生成AIに見せると、どこまで当たるのか?
手がかりになるのが、産業用の外観画像で画像を読める生成AI(マルチモーダルLLM)を評価した MMAD というベンチマークです。8,366枚の工業製品の画像に 39,672問の選択式の問題を付け、正常品の画像を1枚添えた条件で答えさせています。論文の要旨は、商用モデルが最もよく、「GPT-4o の平均正答率は 74.9% に達した」としたうえで、「この結果は産業の要求には遠く及ばない」と述べています(Jiang ほか、arXiv:2410.09453、ICLR 2025 採録。2026年10月13日に原文を確認)。
| 問われた内容 | GPT-4o | 専門家 | 一般の人 |
|---|---|---|---|
| 不良があるか(異常の判別) | 68.6% | 95.2% | 86.9% |
| 不良の種類(分類) | 65.8% | 75.0% | 66.3% |
| 不良の位置 | 55.6% | 92.3% | 85.6% |
| 不良の見た目の説明 | 73.2% | 83.3% | 71.3% |
| 不良が製品に与える影響 | 83.4% | 94.2% | 81.5% |
| 製品の種類(分類) | 95.0% | 86.1% | 89.6% |
| 製品の構成・機能 | 82.8% | 80.4% | 69.7% |
表1から読めるのは、生成AIが「製品が何か」はよく当てる一方、「不良があるか」「どこにあるか」で人に大きく負けるという傾向です。論文も、物に関する問いはよくできるが、不良に関する問いは苦手だと整理しています。なお、この評価は選択肢から選ばせる形式です。選択肢のない自由な質問では、正答率はこれより下がると考えておくほうが安全です。
写真だけで分かる不良・分からない不良は、どう見分けるのか?
見分ける軸は、「答えが写真の中にあるか」です。キズの形や色、どの面に出ているかは写真に写っているため、生成AIでも言葉にできます。一方、キズの深さ、寸法の狂い、内部の割れ、どのロットのどの工程で出たかは写っていません。写っていない情報を聞くと、生成AIは一般的な知識で空白を埋めた答えを返します。表2は、聞く内容ごとに写真で足りるかを判断する基準です。
| 聞きたいこと | 写真で足りるか | 足りない場合に確かめるもの |
|---|---|---|
| 不良の見た目(形・色・大きさの印象) | 足りる | 寸法はスケールを写し込むか実測する |
| 不良の種類の候補(キズ・打痕・汚れなど) | 候補なら足りる | 限度見本と並べて人が決める |
| 不良があるか・どこにあるか | 足りないことが多い | 現物を照明の角度を変えて見る |
| 深さ・内部の割れ・寸法の狂い | 足りない | 測定器・断面・非破壊検査 |
| 発生した工程とロット | 足りない | 工程の記録・4Mの変化点・前後のロット |
| 原因と対策 | 足りない | 再現試験と記録で裏づける |
生成AIは、なぜ不良の原因まで言い当てられないのか?
原因は、写真に写っている不良の側ではなく、不良を作った工程の側にあるからです。同じ打痕でも、搬送中の接触で付いたのか、治具の当たり面に異物があったのか、材料ロットの硬さが変わったのかは、写真を見比べても区別できません。MMAD が問うているのも不良の有無・種類・位置・見た目・影響までで、原因の特定は評価の対象に入っていません。なぜなぜ分析に生成AIを使う範囲を整理した過去記事でも、次のように書きました。
結論から言えば、生成AIは分析の文章を速く整えられても、原因を確かめることはできません。
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写真だけを渡して原因を聞いたときの答えは、「金型の摩耗」「搬送時の接触」「作業者の取り扱い」のように、どの工場にも当てはまる候補の一覧になりがちです。候補の一覧は、確かめる項目を漏らさないためには役立ちます。ただし、その中のどれが自社の工程で起きたかを決めるのは、発生の前後で何が変わったかという記録です。答えをそのまま報告書の原因欄に写すのは避けるべきです。
不良写真を生成AIに見せるときは、何を一緒に渡すのか?
答えの精度は、写真の撮り方と添える情報で大きく変わります。MMAD でも正常品の画像を添えると正答率は上がりましたが、添える枚数を増やしても伸びはわずかで、多くのモデルは添えた画像をうまく使えなかったと報告されています。正常品の写真は1枚添えたうえで、判定の基準は言葉で渡します。撮る前に、次の4つをそろえます。
- 撮り方をそろえた写真:同じ距離・同じ照明で、スケールか寸法の分かる物を写し込みます。照明の角度を変えた写真を2〜3枚撮ると、反射と不良を見分けやすくなります。
- 同じ部位の良品の写真:何と比べて違うのかを示します。
- 判定の基準を言葉にしたもの:限度見本の条件や、許容する大きさを文章で添えます。
- 確かめた事実:品番・ロット・発見した工程・数量。推測は「未確認」と分けて書きます。
基準を渡さずに「これは不良か」と聞いても、AIは基準を持っていません。外観検査の自動化を扱った過去記事でも、同じ性質を指摘しています。
画像検査の装置もAIも、人が決めた基準を速く同じように当てはめる道具であり、基準そのものは作れないからです。
外観検査はどこから自動化するのか?——画像検査に向く不良・向かない不良と、目視を残すべき4条件【2026年版】
不良写真の判定に生成AIが向かないのは、どんなときか?
次の5つに当てはまる場面では、生成AIの答えを判断に使うのは推奨しません。どれも、誤った答えが文章としては自然なため、読んだ人が気づきにくい場面です。
| 向かない場面 | 理由 | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 出荷してよいかの合否を決める | 不良の有無の正答率が人より大きく低い | 限度見本と現物で検査員が決める |
| 限度見本の境目にある品を判定する | 境目は写真の撮り方で簡単に変わる | 見本と並べて同じ照明で比べる |
| 深さ・寸法・内部の欠陥が問題になる | 写真に写らない | 測定器・断面観察・非破壊検査を使う |
| 安全・法令に関わる部品の不良 | 誤りの影響が大きく、判断の根拠を残す必要がある | 規定の手順で検査し、記録を残す |
| 客先の図面や未公開の製品を撮った写真 | 入力した情報の扱いがサービスごとに違う | 社内で使ってよい環境かを先に確かめる |
よくある質問(FAQ)
不良品の写真を生成AIに見せて、不良かどうかを判定できますか?
判定には向きません。公開ベンチマーク MMAD では、不良があるかを問う設問で GPT-4o の正答率は 68.6% と、専門家の 95.2% を大きく下回りました。合否は限度見本と現物で人が決め、AIの答えは見る箇所の候補として使います。
生成AIに不良の原因を聞いても意味はありませんか?
原因の候補を漏れなく挙げる用途なら役立ちます。ただし、どの候補が実際の原因かは写真では決まりません。発生の前後で人・設備・材料・方法に変化があったかを記録で確かめ、再現できた候補だけを原因として残します。
正常品の写真を添えると、精度は上がりますか?
MMAD では、正常品の画像を添えない条件から1枚添える条件にすると正答率は上がりましたが、枚数を増やしても伸びはわずかでした。良品の写真は1枚添え、判定の基準は文章で渡すほうが効果的です。
写真はどう撮れば、生成AIの答えが安定しますか?
同じ距離と照明で撮り、スケールを写し込みます。照明の角度を変えた写真を2〜3枚用意すると、反射と不良を取り違えにくくなります。同じ部位の良品の写真も並べて渡します。
まとめ
不良品の写真を生成AIに見せて分かるのは、写真に写っている見た目までです。公開ベンチマークでは、製品が何かはよく当てる一方で、不良の有無と位置では人に大きく負けました。AIには見た目の説明・種類の候補・確かめる項目の一覧を任せ、合否は現物と限度見本で、原因は工程の記録で人が決めます。出荷判定や安全に関わる不良には使わないと、最初に線を引いておくことが大切です。
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出典・参考
- Xi Jiang ほか「MMAD: A Comprehensive Benchmark for Multimodal Large Language Models in Industrial Anomaly Detection」ICLR 2025(arXiv:2410.09453 v3。要旨・3.2節・4.1節・Table 2 を2026年10月13日に原文で確認)。8,366枚の画像・39,672問。人の値は177問の予備評価(専門家3名・一般5名)
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