ロボットシステムの導入はどの順で進むのか?——引合から引き渡しまでの6段と、発注側が先に決めておく5項目【2026年版】

この記事の要点
- ロボットシステムの導入は「準備→企画→引合→発注・設計→製作・立会→据付・立ち上げ」の6段で進み、発注側が決めることは前半の4段に集まります。
- 発注前に決めておくのは「目的」「対象ワークと品種の範囲」「合格基準」「リスクアセスメントの分担」「立ち上げ後の体制」の5項目です。
- 日本ロボットシステムインテグレータ協会の想定例では、合計1,420万円のうちシステムインテグレーション関連費が640万円(約45%)です。
- 目的が文書になっていない、現状の工程が整理されていない段階での発注は避けるべきです。
この記事が支援する判断:初めてロボットシステムを発注する生産技術担当や工場長が、ロボットSIerに相談する前に、社内で何をどこまで決めておくか、どの段階で何を承認するかを決める場面を支援します。
「SIerに丸ごと任せてよいのか」と迷う担当者は少なくありません。結論から言えば、工程はSIerが進めても、目的・範囲・合格基準・安全の分担は発注側にしか決められません。
ロボットシステムの導入は、どんな工程で進むのか?
一般社団法人日本ロボットシステムインテグレータ協会の「ロボット導入企業向け講座 第一部」(2024年10月作成の資料)は、導入のステップを導入企業側とSIer側に分けて示しています。SIer側は構想検討から詳細設計・DR(デザインレビュー)、製作、流動確認、据付、引き渡しまでの12項目です。本稿ではこれを6段にまとめました。
| 段階 | SIerの主な作業 | 発注側の主な作業 | 発注側が決める・承認するもの |
|---|---|---|---|
| ①準備 | — | 問題点の抽出、担当者の指名 | 導入の目的、主担当者 |
| ②企画 | (相談への助言) | 自動化する工程の選定、費用対効果の検討 | 対象工程、予算の枠、導入の可否 |
| ③引合 | 構想検討、仕様検討、見積もり作成 | 提案依頼書(RFP)の作成、見積もりの比較 | 依頼条件、発注先 |
| ④発注・設計 | 構造図の作成、詳細設計・DR、リスクの提示 | 発注、図面の承認、リスクアセスメントの承認 | 仕様の確定、安全対策の採否 |
| ⑤製作・立会 | 製作・調整、流動確認 | SIer工場での立会 | 出荷してよいか |
| ⑥据付・立ち上げ | 搬入・設置、現地流動確認、トレーニング | 現地での確認、受講 | 検収してよいか |
立会(FAT)と現地確認(SAT)は、なぜ2回あるのか?
⑤の流動確認・立会は一般に工場立会検査(FAT)、⑥の現地流動確認は現地据付後の確認(SAT)と呼ばれる工程に当たります。SIerの工場で確かめた動きが、現地の照明・床・前後の設備の条件で再現されるとは限らないため、2回に分けて確認します。
SIerに相談する前に、発注側は何を決めておくのか?
同じ講座資料は、目的が分からなければSIerもどこに力を入れるか決められないとして、「『最初に言ってくだされば良かったのに』とならないように、目的は明確にして伝えることが重要です」と書いています(p.18)。発注前に決めておく項目は、次の5つに整理できます。
| 決めておく項目 | 決める時期 | 決めないまま進むと起きること |
|---|---|---|
| 1. 目的(人手不足・品質・危険作業のどれを解くか) | ①準備 | 機能が増え、削った結果が目的から外れる |
| 2. 対象ワークと品種の範囲(将来の追加も含む) | ③引合(RFP) | 受注が減ったときに他の品種へ転用できない |
| 3. 合格基準(サイクルタイム・稼働率・不良率と、その測り方) | ④発注 | 検収で測り方の解釈が分かれる |
| 4. リスクアセスメントの分担 | ④設計・DR | 後から安全柵を足し、設計の前提が崩れる |
| 5. 立ち上げ後の体制(主担当・操作者・保守の窓口) | ④発注まで | 復旧や修正をSIerに頼り続ける |
合格基準は、どう渡せばズレないのか?
合格基準を決めずに発注すると、提案段階のズレが受注後まで残ります。SIer側から提案の順番を扱った過去記事でも、原因を次のように書きました。
提案が伝わったつもりのまま通るのは、顧客が提案段階で受け取る情報が、会話・文字・記号に限られているからです。
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発注側からは、見積もりの段階でレイアウト図と動きの分かる図を求め、合格基準をその図に数値で書き込むと、ズレが発注前に見つかります。
安全と教育は、誰がどこまで担うのか?
講座資料の失敗例には、協働ロボットのシステムでリスクアセスメントの踏み込みが弱く、結果として安全柵を追加することになり、協働ロボットの特性を生かせなかった例があり、反省点として「事前にリスクアセスメントをユーザー側でもしっかり行うべきであった」と書かれています(p.23)。SIerはリスクを提示しますが、評価を承認して運用するのは事業者です。教示(ティーチング)などを担う作業者には、労働安全衛生規則第36条第31号に基づく特別教育も要ります。誰が受講するかを発注までに決めておきます。
導入費用は、どの工程にかかるのか?
講座資料は、工作機械への部品の着脱を垂直多関節ロボットで自動化する想定例として、合計1,420万円(加工機は別途)の内訳を示しています(p.28)。ロボット本体は300万円で、構想設計から安全講習までのシステムインテグレーション関連費が640万円と、合計の約45%を占めます。
| システムインテグレーション関連費の内訳 | 金額 | 対応する段階 |
|---|---|---|
| 構想設計、リスクアセスメント | 100万円 | ③引合〜④設計 |
| 詳細設計(メカ、電気、ハンド設計等) | 300万円 | ④設計 |
| 製造組立 | 120万円 | ⑤製作・立会 |
| 設置工事、調整、運搬 | 100万円 | ⑥据付・立ち上げ |
| 安全講習 | 20万円 | ⑥据付・立ち上げ |
| 合計 | 640万円 | (ほかに本体・周辺装置・制御機器で780万円) |
最も大きいのは詳細設計の300万円で、仕様が固まらないまま入るとやり直しで膨らみます。見積もりが膨らむ条件は過去記事でも整理しました。
次のどれかに当てはまる工程は、見積もりが想定の何倍にもなりやすく、そのままではロボット化に向かない段階です。
産業用ロボットの価格はいくら?——本体の価格帯と導入費用の内訳、見積もりが膨らむ5つの条件【2026年版】
発注はまだ早い、と判断すべき条件は?
講座資料は、現状の工程を見直す「じならし」について「あくまでもロボット導入企業主体で行うもの」としています(p.24)。失敗例には、導入後にチョコ停や不慣れによる非効率で稼働率が30%ほどにとどまり、70%に上げるまでに半年以上かかった例も挙げられています(p.23)。次の4つに当てはまるなら、発注を急がず、先に社内の準備を進めます。
| まだ早い条件 | そのまま発注すると | 先にやること |
|---|---|---|
| 導入の目的が文書になっていない | 要求が変わり、見積もりを比べられない | 解決したいことを1枚に書き、優先順位を付ける |
| 対象工程の作業手順やワークの条件がそろっていない | 例外対応の分だけ詳細設計費が膨らむ | 手作業のまま手順と置き方をそろえる |
| 前後の工程との流れを見ていない | 前後の搬送が追いつかず、ラインは速くならない | ライン全体の工程分析をしてから範囲を決める |
| 立ち上げ後の主担当者が決まっていない | 稼働が上がらず、改造のたびに外部頼みになる | 主担当者を指名し、特別教育と操作教育を計画する |
4つとも、SIerに費用を払う前に社内で進められる作業です。自動化全般で止まりやすい原因は、自動化の失敗の原因を整理した記事で扱っています。
よくある質問(FAQ)
提案依頼書(RFP)には、何を書けばよいですか?
導入の目的、対象工程とワーク(寸法・重さ・品種数)、必要な処理能力、設置場所の条件、合格基準の案、予算の枠、希望する時期を書きます。将来追加したい品種があれば、それも書いておくと転用しやすい構成の提案を受けられます。
リスクアセスメントは、SIerに任せてよいですか?
SIerは設計の中でリスクを洗い出して提示しますが、評価結果を承認し、作業手順と合わせて運用するのは設備を使う事業者です。実際の作業のしかたを知っているのは発注側なので、設計・DRの段階で作業の内容を伝えて一緒に評価します。
まとめ
ロボットシステムの導入は6段で進み、工程を進めるのはSIerでも、目的・ワークの範囲・合格基準・安全の分担・立ち上げ後の体制は発注側にしか決められません。5項目を立会より前に決め終え、決まらないうちは発注を急がないことが、手戻りを防ぐ近道です。
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出典・参考
- 一般社団法人日本ロボットシステムインテグレータ協会「ロボット導入企業向け講座 第一部 ロボット導入を成功させるためにまず知っておきたいこと」(PDF。2024年10月作成。2026年10月21日に原文を確認。p.11 導入のステップ、p.18 目的の明確化、p.19〜p.24 体制とじならし、p.28 費用感の想定例)
- 労働安全衛生規則 第36条第31号(産業用ロボットの教示等の特別教育)(e-Gov法令検索)
- FAT(工場立会検査)・SAT(現地据付後の確認)の呼び方は一般的な用語として記載。講座資料では「流動確認・立会」「現地流動確認」と表記されています。
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